オーストラリア生まれのラジオDJ，クリス・グレンです。小学校の先生だった祖父(そふ)の影響(えいきょう)で日本が好きになり，16歳(さい)で日本へ留学(りゅうがく)。24歳(さい)のときに再来日して以来，20年以上，名古屋市でラジオDJとして働いています。ラジオDJというのは，ラジオ番組を進行したり，音楽を紹介(しょうかい)したりする案内役のこと。ラジオDJは音楽に関する知識(ちしき)はもちろんのこと，リスナーへ語りかけ，感想や意見をもらうこともあるから，コミュニケーション力も必要です。僕(ぼく)は，人とコミュニケーションすることが大好きで，小さいころからあこがれていたラジオDJになる夢(ゆめ)をかなえました。ふるさとオーストラリアと日本の両国でDJの仕事ができるのは幸せです。

ラジオDJの仕事の簡単(かんたん)な流れを紹介(しょうかい)しましょう。日曜日の9時から始まる番組では，僕(ぼく)は8時にスタジオに入ります。まずは，ディレクターと番組の流れを確認(かくにん)して，各コーナーの原稿(げんこう)の読み合わせをします。そして4時間の生放送！打ち合わせは1時間だけ。でも，その前にラジオで話す内容(ないよう)は準備(じゅんび)しているんですよ。例えば，今日は何の日か，世の中で流行っていることは何か，リスナーが聞きたい話題は何かと常(つね)にアンテナを張(は)って情報(じょうほう)収集(しゅうしゅう)しています。曲を紹介(しょうかい)するときも曲名やアーティスト名だけではなく，その周辺のストーリーを話します。リスナーが聞きたいネタ，そのニーズを把握(はあく)することが大切だね。

ラジオDJは，自分をさらけ出さないといけない仕事です。演(えん)じるのではなく，自分そのものを出すことが大切です。リスナーへ語りかけるのに，演(えん)じているだけでは，気持ちが伝わりません。トークをする時に気をつけていることは，リスナーと同じ目線に立って話すこと。友だちに話すような感覚でトークをすることで，リスナーとの距離(きょり)が近くなるんですよ。 そしてもう一つ，わかりやすく話すことも，とても大事。たとえば，僕(ぼく)の大好きな城(しろ)や武将(ぶしょう)，戦国時代の歴史について話をするときも，歴史が苦手な人でもわかりやすく，理解(りかい)できるように，できるだけ難(むずか)しい言葉を使わないようにして話しています。「クリスのおかげで歴史が好きになった」という反応(はんのう)もいただくので，嬉(うれ)しいですね。 また，ラジオDJは，喋(しゃべ)りよりも音楽が主役であることを忘(わす)れてはいけません。例えるならば，音楽はスープでDJはスパイスです。DJは，絶妙(ぜつみょう)な味付けをしてスープを引き立てるのが仕事です。

街を歩いていると，「この前のラジオを聞いたよ」と声をかけられたり，「どーもどーもどーも！」とモノマネされたりすると嬉(うれ)しいですね。僕(ぼく)は身長も高くて目立つらしく，街を歩いているとリスナーに話しかけられて，直接(ちょくせつ)会話することもあります。昔放送していた内容(ないよう)を僕(ぼく)よりも詳(くわ)しく覚えているリスナーがいたときは驚(おどろ)いたね。「ありがとう」と言いたい。ラジオDJをしていて，リスナーとコミュニケーションできることは，とても楽しいです。

僕(ぼく)がラジオDJになったきっかけは，オーストラリアで放送の専門(せんもん)学校へ行っているときに，あこがれていたラジオ局を訪問(ほうもん)したときです。社長へ挨拶(あいさつ)するだけのつもりが面接(めんせつ)となり，いきなりラジオDJとしてデビューしたんです。 どうしてDJになりたいなのか聞かれ，人とコミュニケーションするのが好きだとか，音楽も好きだという話はしました。社長は，DJは給料も高くないし，安定した職業(しょくぎょう)ではないよって。でも，僕(ぼく)はそのネガティブな面よりも，ラジオDJという仕事のポジティブな面や楽しさ，やりがいに魅力(みりょく)を感じてると伝えました。 スタジオを見学したときに「機械は分かるね。それじゃあ，これから30分後の番組やってみる？」と言われたんですよ。もちろん二つ返事で「OK!」と答えました。チャンスは逃(のが)しません。

日本へ来て，名古屋で仕事ができると聞いたとき，周りの人は東京で仕事をした方が良いと言ったけど，僕(ぼく)は名古屋へ住みたいと思いました。名古屋は多くのサムライが活躍(かつやく)した舞台(ぶたい)で，城(しろ)や古戦場などが，たくさんある魅力(みりょく)的な街だからです。今では，その歴史や魅力(みりょく)をラジオやイベント，トークショーなどで伝えることも多くなりました。 そんな日本が大好きな僕(ぼく)だからこそ言えるのは，日本人は日本のことをよく知ることが必要だと思っています。今，グローバル化ということが言われているけど「英語」を話せるようになるよりも先に，まずは自分の国の歴史や文化，ふるさとのことを話せることが，とても大切。たとえば僕(ぼく)に会ったら「オーストラリアって，どんな国？」って聞きたくなるでしょう。外国人も同じ。あなたの生まれ育った国のことに興味(きょうみ)があります。ぜひ，日本の魅力(みりょく)を伝えられるようになってください。

忘(わす)れもしない東日本大震災(しんさい)のとき，ヘリコプターで福島，宮城(みやぎ)へ行きました。震災(しんさい)の影響(えいきょう)で孤立(こりつ)した町へ物資(ぶっし)を運ぶためです。震災(しんさい)から１週間後でしたが，町の様子は想像(そうぞう)以上に凄(すさ)まじく，運ぶ途中(とちゅう)で心配になってきたのです。海外の場合だと，同じような状況(じょうきょう)で物資(ぶっし)を運ぶと取り合いになって，争い，大混乱(こんらん)になることがあります。ヘリコプターが襲撃(しゅうげき)されてしまうのではないかと不安になりました。ところが，いざ学校の校庭へ物資(ぶっし)を運んでみると，代表者がむかえてくれて「ありがとうございます」と，深々(ふかぶか)とお辞儀(じぎ)をして順番に段(だん)ボールを運んでいく。僕(ぼく)はビックリしました。さらに驚(おどろ)いたのは「あちらのエリアの方が大変だから」と他の人の心配をするんです。こんな状況(じょうきょう)でも相手を思いやる気持ちがある。真面目で，優(やさ)しくて，思いやりがある，日本のみなさんが大好きです。

まずは夢(ゆめ)を持とう。自分の未来を見据(みす)えて，何が好きか，自分が何になりたいか，どんな人になりたいか，どんなことをしようかと考えます。そして，その夢(ゆめ)を実現(じつげん)するために少しずつ勉強していく。いろんな人に会って話すことも良いでしょう。子どものころは沢山(たくさん)の夢(ゆめ)があっても，大人になるにつれて夢(ゆめ)を無くしてしまう人がいます。目指す夢(ゆめ)が変わることもありますが，その夢(ゆめ)はすぐに実現(じつげん)するものではないのです。夢(ゆめ)を実現(じつげん)するためには努力が必要ですね。 ある意味頑固(がんこ)になって，その夢(ゆめ)が実現(じつげん)するまで，少しずつ少しずつ前に進んでください。みなさんは，何でもできる可能(かのう)性(せい)があります。 「Just do it !」頑張(がんば)ってください！